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子や孫の未来を応援する!教育資金贈与信託とは。
2024.12.01 ファイナンシャルプランニング
大阪府門真市のFP事務所as is代表ファイナンシャルプランナーの南真理です。一般的には教育費は親が支払うケースが多いですが、祖父母等から将来かかる教育費を「教育資金贈与信託」を活用して、贈与してもらう方法があります。今回は、教育資金贈与信託のしくみやメリット、注意点、どのような方が契約されるのかについて大手信託銀行出身のファイナンシャルプランナーが解説します。
そもそも信託ってなに?
「信託」とは、「自分の大切な財産を、信頼できる人に託し、自分が決めた目的に沿って大切な人や自分のために運用・管理してもらう」制度になります。信託の基本的なしくみは、以下のようになります。
委託者とは、財産を預ける人になります。また、受託者(信託銀行等)は財産を預かって管理・運用する人のことです。そして、受益者とは財産から生じる利益を受け取る人にあたります。
世の中には、様々な目的や利用方法に応じた信託商品があります。例えば、投資家から集めた資金を専門のファンドマネージャーが運用し、収益が投資家に分配される投資信託も信託商品の一つです。そして、今回ご案内する教育資金贈与信託も信託商品に含まれます。
信託を活用するメリットは、財産の管理や運用がプロに任されるため、資産が適切に保護・運用されます。また、一部の信託商品は相続税や贈与税などの税務対策として活用されることもあります。相続時にも信託を活用することで、資産の配分や相続手続きがスムーズに進めることができ、遺産分割のトラブルを減らす効果もあります。一方、設定や管理に費用がかかる場合や内容によっては一度設定した後は変更ができないことがデメリットと言えます。
教育資金贈与信託とは?
1年間に贈与を受けた合計額が110万円を超えると、通常贈与税が課税されます。しかし、教育資金贈与信託を活用すると、1,500万円を限度に贈与税が課税されず子や孫の教育資金を援助することができます。なお、教育資金贈与信託は、令和8年(2026年)3月31日までに信託銀行等と信託契約されたものに限られます(延長される場合あり)。詳細については取り扱いの信託銀行等に確認するようにしましょう。
教育資金贈与信託のしくみは以下のようになります。
委託者である祖父母等は、信託銀行(受託者)と信託契約を締結し金銭を信託します。そして、子や孫である受益者は、当該資金の贈与を受けるために信託銀行を経由して税務署に非課税申告書を提出します。手続きが完了すれば、教育資金贈与信託専用の通帳が受益者名義で発行されます。そして、教育資金が必要になった都度、信託銀行(受託者)に対して、払い出しの手続きをします。それと同時に、教育資金の払い出しであることを証明するために、受益者(子や孫)は領収書等を信託銀行に提出します。受益者(子や孫)が未成年者の場合には、必要な手続きは親権者である父母がします。
注意点としては、
・契約は1つの信託銀行に限られていること。
・贈与を受ける受益者(子や孫)は30歳未満であること。受益者が30歳になった時点で満期を迎え、その時信託財産が残っていれば贈与税の課税対象となります。
・信託財産をすべて払い出した場合を除き、中途解約はできません。つまり、贈与した資金を委託者(祖父母等)に戻すことはできません。
・払い出し資金の資金使途は、教育資金に限られること(塾や習い事等、学校以外に支払われる費用は500万円まで)。
・受益者(子や孫)は、教育資金かどうかを証明するために、定められた期限(教育資金を払い出した年の翌年3月15日まで)に取り扱いの信託銀行に領収書等を提出しなければなりません。
・取り扱いの信託銀行によっては信託設定時に費用等がかかる場合があります。
・信託期間中に委託者(祖父母等)が亡くなった場合、信託設定や追加が行われた時期や受益者(子や孫)の年齢によって相続税の対象になる場合があります。
教育資金贈与信託を契約する人はどんな人?
私は信託銀行に長年勤めておりました。その中でたくさんの教育資金贈与信託を契約するお客様の受付をしてきました。次に実際にどのような方が教育資金贈与信託を活用されているのかをご紹介します。
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まとまった金額を贈与したい
教育資金贈与信託のメリットは、最大1,500万円もの資金を、一括で贈与することができる点です。一定要件に該当すれば、相続財産とみなされる場合がある点には注意が必要ではあるものの、委託者(祖父母等)の生前にまとまった金額を贈与し、子や孫の教育資金のために活用できる点に魅力を感じ、お申し込みされるお客様が圧倒的に多かったです。
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子や孫の教育資金の援助をしてあげたい
教育資金贈与信託は、言うまでもなく子や孫の教育費にかかる資金の援助が目的となります。例えば、孫が大学や大学院に進学するため資金を援助してあげたいというお客様は、大学や大学院の進学費用でかかる金額をあらかじめ確認した上で、教育資金贈与信託を契約されていました。
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子や孫に贈与したという形を遺しておきたい
教育資金贈与信託を契約すると、通帳が信託銀行から発行されます。私が勤めていた信託銀行は、通帳の表紙に孫等と一緒に撮った写真を印刷できました。また、通帳の見開きに孫等へメッセージを書き、目に見える形で贈与した事績を遺すことができました。教育資金贈与信託は、契約時に祖父母と孫等の本人確認書類やマイナンバー、祖父母と孫の関係がわかる戸籍謄本、その他信託銀行指定の書類などたくさんの書類を提出しなければならず、やや複雑です。そのため、手続きが無事完了したときのお客様の嬉しそうな表情は大変印象深いものでした。
教育資金贈与信託を契約するなら事前に家族間での話し合いは必須
教育資金贈与信託は祖父母等である委託者主導で契約をされるケースが非常に多く、受益者(子や孫)側が払い出し手続きや領収書の提出について理解されずにいるケースも散見されます。そのため、契約にあたっては家族間で事前に話し合いをし、必要であれば受益者側(子や孫)も信託銀行の担当者に、契約後の払い出しや領収書提出のルールについて事前に確認することをオススメします。
教育資金贈与信託は、子や孫への教育資金の援助をすることができる上に、一括でまとまった資金を生前贈与できる信託商品になります。贈与を受ける側にとって、教育費の負担が減ることは大きなメリットです。しかし、いったん契約すると解約することができないため「こんなはずじゃなかった」とならないよう、事前確認と相談をした上で、子や孫の教育資金支援に活用できることが、お互いにとってこの上ない幸福感をもたらしてくれるのではないでしょうか。
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筆者:南真理(ファイナンシャルプランナー)
〈プロフィール〉
17年間、大手信託銀行に勤務したのち、2022年FP事務所as isを設立。現在はライフプランを作成し、資産運用の提案や家計改善のアドバイス、転職や起業したい方の経済面でのサポートなど、幅広く個人向けに相談業務を行っている。お客様に寄り添った丁寧で分かりやすい説明が大変好評をいただいている。また相談業務だけでなく複数のメディアでの執筆活動も行っている。
資格:AFP・FP2級技能士 宅地建物取引士 証券外務員2種・1種